native instrumentsから新しいオーディオフォーマット『STEMS』が発表されましたね。
これは簡単にいえば、曲が4つのパートで構成され自由にコントロールできるマルチファイル的な音源のことです。
例えば『ドラム』『ベース』『ボーカル』『それ以外のパート』の4つになっていれば、はじめベースとボーカルのみ再生して他のパートはだんだんフェイドインしたり、ドラムとベースをmuteした状態で他の曲のドラムとベースとMIXで重ねたり、といった自由度の高いプレイが可能です。
DJというよりはリアルタイムで行うリミックスに近いプレイが可能になりますので、良い意味でクリエイターとDJの境界が少なくなりますね。
今回のオーディオフォーマット『STEMS』はエンジニアとしてもクリエイターとしても期待しています。
●私がSTEMSに感じた3つのポイント。
- DJとリミックスの境界の少ない、自由度の高いプレイの可能性。
- マスタリングエンジニアとしての観点でSTEMS。
- CDフォーマットやハイレゾへの対応を期待。
STEMは4つとはいえマルチトラックのDATAを扱えるようになる訳です。今までableton LiveやDAW、ハードシーケンサー/サンプラー等でやっていたライブパフォーマンスに近いことが可能になります。
もちろんリミックスワークのように多数のトラックを抜き差ししたい場合にはSTEMSでは力不足でしょうが、ライブパフォーマンスでは抜き差しによる展開もシンプルな方が良いケースも多いのでDJやLIVEではSTEMSは表現の幅を広げるツールになってくれそうです。
参考にした2サイト(※当記事の下記参照)によると無料のStem Creator Toolといったツールが提供され自分の楽曲でSTEMSフォーマットの曲も作ることが可能になっているようです。これは素晴らしいですね!
- 曲を制作した後、曲を構成するパートを4つのグループにわける
- そのグループごとにステレオファイルとしてバウンス(WAV or AIFFファイル)
- Stem Creator Toolに4つのファイルを読み込み制作
というような流れになるみたいですね。
もちろん各レーベルやBeatport、JunoRecords、TraxsourceなどのStoreでもSTEMSでのリリースを予定しているようですので、DJもお気に入りのアーティストの曲でより自由なプレイを楽しめますね。
私個人としてはStem Creator Toolという制作ツールをオープンにしているのが非常に素晴らしいと思います!
私はエンジニアとしてマスタリングを行っていますので非常に気になるところです。今回参考にした海外のサイトのコメント欄でもその点が議論されているようですが…、英語なので本格的に議論に混ぜれないのが残念です、、、(笑)。
そちらのサイトを頑張って読んでみたところの自分なりの解釈ですが、
- STEMSは通常のマスタリングは放棄しているフォーマットである
- 4つのパート書き出し時はマスターBUSSを有効にしてパート書き出しを推奨する
- しかし最終ミックスで1つにくっつける機会は失う(多分トータルコンプで一塊に仕上げる意味?)
英語は不安で間違っているかもしれないですが(笑)、マスタリングに関しては深く分かっているので、だいたいの意味はあっていると思います。もし間違ってたら教えて下さい。
一般的にSTEMSに限らず、マルチファイル形式で再生する場合のマスタリングの考え方は2種類で、
1.上にある様に4つのファイルを書き出す際にマスターBUSのトータルコンプやマキシマイザーをかけて状態で出力。再生ソフト側ではそのまま混ぜるのみ。
2.再生ソフト内のマスターBUSSでトータルコンプ/リミッター的な処理を加える。つまり再生ソフト内に簡易マスタリング機能を持たせる。
になると思います。
私の英文読解があっていれば(笑)、STEMSは1の案になっているのではないでしょうか。
1つ目の方法も理にかなっているようにも受け取れますが、そもそもDAWのマスターBUSSにプラグインをさして行うマスタリングは簡易的なマスタリングであり、音にこだわるアーティストやマスタリングスタジオが行っているものはもっと複雑な工程になります
またコンプ等の処理というのは奥が深く、例えばベースとドラムの2つのパートのみの曲があったとして『ベースとドラムを混ぜてからコンプ処理する』、『ベースとドラム、各々にコンプ処理してから混ぜる』コンプの設定が全く一緒であっても完成する音は大きく違ったものになってきてしまいます。(ここでいう大きくとはマスタリングレベルでの話)。
2つ目の方法は再生ソフト内に簡易マスタリング機能を持たせてしまう方法ですが、当然簡易になってくるので音質的には中々難しい点が出てきてしまうでしょうね。
個人的にはAXXやVST等のプラグインを例えばTraktorのSTEMSのデッキのMixBUSSに挿せるようになっていると中々良いのではないかとは思います。
ただDJ中は忙しくて曲ごとにプラグインの設定を変えてられないでしょうし、マスタリングエンジニアの視点から見てもアウトボードや良質なDAを使ったマスタリング工程行っている曲と同等の質感には中々ならないと思います。
ただこういった足枷がある中でいかに良い音を仕上げるかは非常に楽しいですし(笑)、いくつか試してみたいアイデアもありますのでStem Creator Toolがリリースされたら入手して、STEMSに最適化したマスタリング方法も研究してみたいと思っています。
個人的にはSTEMSフォーマットではパーフェクトな楽曲を目指すのではなく、DJがTR808等を持ち込んで一緒に鳴らす感覚に近いイメージがあっていると思っています。
つまりガッチリTRACKとして仕上げられたものをリミックスするフォーマットと捉えるのではなく、ライブ・パフォーマンス的な良い意味でザックリ仕上げたTRACKをSTEMSフォーマットで持ち込むような感覚ですかね。
新しいフォーマットは色々と問題点もありますが、そこが面白いところでもありますしSTEMSには大いに期待しています。
オーディオフォーマットは現状ではmp4フォーマットがベースになるようです。
STEMSは4つのマルチファイルを内部に持つわけで単純にファイルサイズは4倍になるでしょうから、今のユーザーの使用環境や需要を考えると極力ファイルサイズを小さくする必要性が出てくるんでしょうね。
ただ個人的には最低でもCDレベルの解像度(44.1kH/16bit)、可能であればハイレゾ(96kH/24bit)までのSTEMSも制作/再生できるようにして欲しいですねー。Stem Creator Tool自体はwavやaiffを読み込んでSTEMSに変換する訳ですから、技術的には問題なく対応できるような気がします。
個人的には『デジタルならではの自由度のあるプレイ』と『インターフェイス次第でハイレゾにも対応できる』の2点が、PCを使ったDJやライブパフォーマンスの素晴らしいメリットと考えていますし、私のTraktorPro導入の動機にもなっています。
音にこだわりを持つDJやクリエイターは、ファイルサイズよりも音質を重視する向きもあるので、STEMSもぜひユーザーが自由にサンプリング/ビットレートを選択できるようにしてほしいと思います。
以上いろいろと書いてきましたが、新しいオーディオフォーマットSTEMSには期待しています。
NI(native instruments)もDJやクリエイター、エンジニアの良い意見には耳を傾けて、新しいシーンに貢献するようなフォーマットに進化させていってほしいと思います。
また6月以降にStem Creator Tool等が公開されましたら、色々と実験して情報をシェアしたいと思っています。楽しみです!
●今回参考にしたWebサイト
Native Instruments、新しいマルチトラック・オーディオ・フォーマットSTEMSを発表
NI公式よりも自分の知りたかった情報が日本語で端的にかかれていたBLOGです。
DJ TechTools
Stems: A New Multi-Channel Audio Format for DJing
英語ですがコメント欄などでSTEMSやマスタリングについて色々と議論されていて面白いです。